当記事では、レチノールとはどのような成分か、について紹介します。
昨今、スキンケア商品において注目されている美容成分ですが、スキンケアにおける期待効果、特徴や使用上の注意点、他の成分との効果的な組み合わせ、類似効果を持つ成分などについて詳しく解説していきます。
また、当記事の最後に商品を紹介しているので、ご興味のある方はぜひご覧ください。
レチノールとは?
レチノール(Retinol)とは、ビタミンAのことです。
正確には、以下の構造を持った物質のことで、ビタミンA1の中の一つを指します。
(後述しますが、ビタミンA1と呼ばれる物質は、レチノールを含む3種類の物質の総称になっています。)
ビタミンと聞くと「野菜や果物、レバーなどに多く含まれる栄養素」「健康のためにサプリメントで補う」といったイメージがある方が多いのではないでしょうか。
生体におけるビタミンAの働き
生体中でビタミンAは以下のような働きがあります。
- 目や皮膚の粘膜を健康に保つ
- 薄暗い場所で視力を保つ
また、近年の研究から光防護作用[8]や発がん予防[9]にも効果があると言われています。
逆に言えば、ビタミンAが不足すると、皮膚の乾燥、肥厚、角質化(かさつき・ごわつき)が進むことで免疫機能が衰え、粘膜の乾燥と併せて感染症にかかりやすくなります。
また、暗い場所で目が見えにくくなり(暗順応障害)やがて夜盲症が引き起こされます。[5]
(実際は、「ビタミンAが食事でどれだけ摂取できたか」よりも「肝臓に最低量(20μg/g)が確保されているかどうか」が重要と考えられているようです。)
ビタミンの種類と働き
ビタミンは13種類存在します。
下の表に、ビタミンの種類ごとの生体での働きと豊富な食品の例、溶解性の分類をまとめました。
ビタミンの種類 | 生体での働き(一部) | 多く含まれる食品[7] | 水への溶けやすさ |
---|---|---|---|
ビタミンB1 (チアミン) | ・糖質をエネルギーに変換する機能(クエン酸回路)の手助け[1a] ・中枢神経・末梢神経の機能を正常に保つ[2a] | 豚肉、小麦、ゴマ、マイタケ、干し海苔、昆布、パセリ、落花生、大豆、たらこ、うなぎ | 〇(水溶性) |
ビタミンB2 (リボフラビン) | ・体内のエネルギー代謝を支える[1b] ・体の成長を手助けする[2b] | レバー、干し海苔、乳製品、卵、パセリ、マイタケ、うなぎ、アーモンド、納豆 | |
ビタミンB6 (ピリドキシン) | ・アミノ酸の代謝を手助けする[1c] | にんにく、バジル、パセリ、ピスタチオ、こんにゃく、マグロ、バナナ、ドライトマト、レバー | |
ビタミンB12 (コバラミン) | ・赤血球の形成を手助けする[1d] ・動脈硬化の危険因子であるホモシステインの血中濃度を調整する[1d] | シジミ、干し海苔、アサリ、ウナギ、スジコ、レバー、牡蠣、ホタルイカ | |
ビタミンC (アスコルビン酸) | ・体内の細胞膜や脂質の酸化による老化を予防する[1e] ・コラーゲンの合成を促進する[2c] | アセロラ、ケール、パセリ、焼きのり、ピーマン、ゆず、ブロッコリー、菜花、すだち、レモン | |
ナイアシン (ニコチン酸) | ・エネルギー代謝を手助けする[1f] | マイタケ、たらこ、コーヒー、落花生、マグロ、カツオ、シイタケ、鶏肉、ドライトマト、アーモンド | |
パントテン酸 (ビタミンB5) | ・エネルギー代謝、脂肪酸の合成・分解、アミノ酸代謝の調節過程で中心的役割を担う[1g] | レバー、シイタケ、乳製品、ウナギ、納豆、たらこ、マイタケ、卵、イワシ、サケ、ブロッコリー | |
ビオチン (ビタミンB7、 ビタミンH) | ・脂肪酸の代謝を手助けする[1h] ・皮膚や粘膜の機能を保持する[3] | マイタケ、レバー、落花生、コーヒー、ヘーゼルナッツ、卵、バジル、アーモンド、大豆、カレイ、アサリ | |
葉酸 (ビタミンB9、 ビタミンM) | ・赤血球の形成を手助けする[1d] ・動脈硬化の危険因子であるホモシステインの血中濃度を調整する[1d] | 海苔、パセリ、鶏レバー、ブロッコリー、うに、枝豆、バジル、シイタケ、マンゴー、ほうれん草 | |
ビタミンA | ・目の角膜などの機能を維持する[1e][4] ・暗所での視力を保つ[5] ・皮膚や粘膜の機能を保持する[5] | レバー、ウナギ、アユ、ホタルイカ、タラ、マグロ、乳製品、卵、にんじん、しそ、モロヘイヤ | ×(脂溶性) |
ビタミンD | ・カルシウムとリンの吸収を促進する[1i][6] ・骨や歯の形成を手助けする[5][6] | きくらげ、シラス干し、イワシ、ニシン、スジコ、たらこ、サケ、マイタケ、サンマ、うなぎ | |
ビタミンE | ・体内の細胞膜や脂質の酸化による老化を予防する[1e][1i][5] ・血管を健康に保つ[5] | 植物油、アーモンド、アユ、ヘーゼルナッツ、スジコ、落花生、卵、パセリ、えび、西洋かぼちゃ | |
ビタミンK | ・血液の凝固を手助けする[1i][5] ・骨や歯の形成を手助けする[5] | 茶、海苔、ケール、パセリ、納豆、モロヘイヤ、ひじき、ほうれん草、ブロッコリー、かぶ |
少々話は逸れますが、ビタミンを「水への溶けやすさ」という観点で分類すると、水に溶けやすい水溶性ビタミンと水に溶けにくい脂溶性ビタミンという2種類に分けられます。
ビタミンA(レチノール)は脂溶性ビタミンに分類され、
水へ溶けにくく、エタノールや油脂に溶けやすい性質をもつ結晶です。
この性質が、後述するレチノールを含む化粧品の特徴に関わってきます。
水溶性ビタミンは、摂取した量によらず体に必要な分だけが利用され、残りは尿で排出されます。
一方で、脂溶性ビタミンは、摂取した量が多ければ多いほど、肝臓や脂肪組織に蓄積される性質があります。
そのため、脂溶性ビタミンは、体に蓄積しておくことができる一方で、あまりに多くの量が体に蓄えられると、頭痛、皮膚の落屑(死んだ皮膚が剥離すること(粉をふく))、脱毛、筋肉痛などの過剰症を引き起こすことがあり、レバーやサプリメントの大量摂取には注意が必要です。
厚労省の調べ(日本人の食事摂取基準(2020年版))によると、1日の摂取推奨量は、18歳以上の成人男性の場合850〜900 µgRAE、成人女性の場合650〜700 µgRAEとされています。[5]
(レチノール活性当量(µgRAE)=レチノール(µg)+β─カロテン(µg)×1/12+α─カロテン(µg)×1/24+β─クリプトキサンチン(µg)×1/24+その他のプロビタミン A カロテノイド(µg)×1/24)
健康のために日々の食事で適切な量のビタミンAを摂取する必要があることが分かりました。
それでは、スキンケアにおけるビタミンAには、どのような効果が期待できるでしょうか。
スキンケアにおけるレチノール
まずは改めて、レチノールがどのような物質なのか見てみましょう。
表示名・基本情報
INCI名 | Retinol |
---|---|
化粧品表示名 | レチノール |
医薬部外品表示名 | レチノール |
INCI名…化粧品成分の事実上の国際的表示名
CAS番号 | 68-26-8 |
---|---|
CAS名 | Retinol |
化学式 | C20H30O |
分子量 | 286.45 |
融点 | 62-64℃ |
溶解性 | 水に不溶、エタノール・油脂に可溶 |
熱にはある程度の耐性がありますが、紫外線や空気に敏感で、分解や酸化が引き起こされやすい成分です。
化粧品および医薬部外品におけるレチノールの配合目的
化粧品および医薬部外品において、レチノールは以下の目的で配合されます。[10a][11][12a][13a]
- 表皮ヒアルロン酸産生促進による抗シワ作用
- 表皮角化細胞増殖促進による細胞賦活作用
前述した生体中でのビタミンAの効果のすべてが、化粧品および医薬部外品におけるレチノールから期待できるかというと、そうではないことがお分かりいただけると思います(例えば暗所で視力を保つ効果)。
それでは、「抗シワ作用・細胞賦活作用とはなにか?」「それぞれの作用のメカニズム」について、もう少し詳しく見ていきます。
抗シワ作用
医薬部外品表示名「レチノール」は、資生堂グローバルイノベーションセンターの申請によって、2017年に医薬部外品のシワ改善有効成分として厚生労働省に認められました。[14]
シワ改善効果が認められたレチノールは、現状この資生堂のレチノールだけで、他のレチノールと区別するために「純粋レチノール」という名前で区別されます。
シワ改善の根拠
以下に、資生堂が発表した研究結果の一部を記載します。
正常ヒト表皮角化細胞を用いた実験から、RO(レチノール)はヒアルロン酸合成酵素HAS3の遺伝子発現を亢進し、ヒアルロン酸を優位に産生させた。このようなヒアルロン酸の産生促進作用は皮膚水分量を顕著に増加させ、皮膚に柔軟性を与えることにより、シワを改善すると考えられた。
大田正弘. 「シワを目立たなくする」から「改善する」までの製剤技術と有効性. J. Soc. Cosmet. Chem. Jpn. 2019. Vol.53, No.3, p.171-180
分かりやすくまとめると、
- レチノールによってヒアルロン酸の産生が促される(レチノールがヒアルロン酸を合成する酵素をより多く作り出させる)。
- 作り出されたヒアルロン酸により皮膚水分量が増加する。
- 真皮のヒアルロン酸やコラーゲンなどの構成成分の産生も促進され、コラーゲン密度が高まる
これらの要因によって、皮膚の柔軟性が高まることでシワを改善するということになります。
(実際は、後述する細胞賦活作用の効果も相まっていると考えらえます。)
細胞賦活作用
レチノールには、皮膚や粘膜の細胞賦活作用があります。
細胞賦活作用とは
肌の新陳代謝を助け、ターンオーバーを促進する作用のことを言います。
ターンオーバーとは、表皮の細胞の生まれ変わりのことで、この機構により肌のバリア機能を一定に保っています。
ターンオーバーの仕組みは次のようになっています。
- 基底膜で新たな細胞(角化細胞)が作り出されることで、角化細胞が肌表面へ向かって押し上げられる
- 有棘層、顆粒層を経由し、約14日間*かけて角層へ到達する
- さらに14日間*かけて角層表面から順に角片が剥がれ落ちる
*化粧品成分検定公式テキスト[13b]、日本化粧品検定2級・3級対策テキスト[15b] 参考
ターンオーバーは、加齢や紫外線・肌荒れにより周期が乱れることが知られており、ターンオーバーの乱れが、皮膚機能の低下となり、乾燥、ごわつき・ざらつき、くすみ、肌荒れ、毛穴が目立つなどの肌トラブルに結び付くと考えられています。
逆にいえば、ターンオーバー正常に保つことは、皮膚機能の低下を防ぐということなので、この観点からエイジングケアとして細胞賦活作用が重視されます。
(前項の資生堂の研究結果では、ヒアルロン酸産生促進により抗シワ効果が認められる、とされていましたが、表皮ヒアルロン酸の産生を促進することはターンオーバーの正常化においても重要であると考えられています。[13b] そのため、純粋レチノールの抗シワ作用は、「真皮構成成分密度の増大」と「細胞賦活作用」の複合的な要因によるものと考えられます。)
疑問:レチノールはシワ全般に有効なのか?
ここで次のような疑問が生じた方もいらっしゃるのではないでしょうか?
「レチノールはどのようなシワに対しても有効なのか?」
この疑問を解決するために、段階ごとのシワ形成のメカニズムについて見てみましょう。
シワが形成される過程と分類
①表皮性しわ(小じわ)
状態 :細かなちりめん状
発生場所 :目元、口元など
発生原因 :乾燥など(角層の水分や油分が失われ、皮膚のしなやかさが失われた状態)
お手入れ :保湿する*
効果的な成分:保湿成分(ヒアルロン酸、コラーゲン、セラミド、アミノ酸、糖類など)、油性成分(スクワラン、アルガンオイル、シアバターなど)*
②真皮性しわ(深いしわ)
状態 :深い線状
発生場所 :目元、口元、額など
発生原因 :加齢、紫外線など(真皮のコラーゲン線維・エラスチン線維が損傷し、肌内部の弾力性が失われた状態)
お手入れ :コラーゲン線維・エラスチン線維の修復を促す成分を使用、外科(ヒアルロン酸注入、フラクショナルレーザー)など*
効果的な成分:レチノール、ニールワン、ナイアシンアミド、フラーレン、ユビキノンなど*
③たるみ
状態 :肌全体が下がり、たるんだ状態
発生場所 :まぶた、目の下、口元、毛穴など
発生原因 :表情筋の衰え、皮下組織の構造変化など(皮膚を支える土台が崩れている状態)
お手入れ :表情筋のトレーニング、コラーゲン線維・エラスチン線維の修復を促す成分を使用、外科(ラジオ波・レーザー治療、フェイスリフト)など*
・表情じわ
状態 :大小さまざまな線状
発生場所 :目元、口元など
発生原因 :同じ表情を続けることで、表情筋が凝り固まった状態
お手入れ :神経細胞の活動を緩和し表情筋をリラックスさせる成分を使用、外科(ボトックス注射など)*
効果的な成分:アセチルヘキサペプチド-8、ジ酢酸ジペプチドジアミノブチロイルベンジルアミドなど*
まとめると、シワ形成は主に以下の要因で進行していきます。
- 水分・油分量の減少(表皮性しわ/小じわ)
- コラーゲン線維・エラスチン線維のダメージ、変性(真皮性しわ/深いしわ)
- 表情筋の衰え・皮下組織などの構造変化(たるみ)
- 表情筋の緊張(表情じわ)
それでは、純粋レチノールが、「どのようなメカニズムで」「どの原因にアプローチすることで」シワ改善の効果を発揮していたか、もう一度振り返ってみましょう。
レチノールが、
①ヒアルロン酸の産生を促し、これにより皮膚水分量を増加させる
②真皮内の構成成分(ヒアルロン酸やコラーゲンなど)の産生を促進させる
(③ターンオーバーを促進し、上記を作用を効果的にする)ことで皮膚の柔軟性やハリが高まり、シワを改善する。
以上から、次のことが言えるでしょう。
純粋レチノールは、「表情じわ、たるみを除く」シワ全般の予防として効果が期待できる
純粋レチノールは、「表情じわ、たるみを除く」シワ全般に改善効果が期待できる
※もちろん、シワとたるみの間、シワと表情じわの間が明確に区切れるわけではありません。
当然ながら、表情じわ・たるみにも乾燥やハリの不足が関係していますので、レチノールがシワ予防としても有効な手段であることは変わりありません。
単に話題性やキャッチフレーズだけで判断せず、「何を目的としてその商品を選ぶか」「成分の効果の対象と自分自身の特徴が合致しているか」をきちんと意識したいところです。
医薬品医療機器等法では、化粧品の訴求可能な効果・効能を範囲を定めています。
シワにおける化粧品および医薬部外品の表示可能な範囲は次のようになっています。
化粧品 :乾燥小じわを目立たなくする
医薬部外品 :しわを改善する
つまり、化粧品か医薬部外品かを意識せずとも、謳い文句によって医薬部外品として承認された商品か、そうでないかが分かります。
レチノール製品の使用について
レチノールの効果を理解したので、いよいよレチノールの使用について触れていきます。
レチノールの種類と特性
レチノール(ビタミンA)には種類があり、それぞれで特徴や効果が異なります。
種類ごとの効果の違いや特徴を理解したうえで、商品を選びましょう。
種類 | 表示名称 | 刺激 | 安定性 | 配合可能 | 特徴 |
---|---|---|---|---|---|
レチノール誘導体 (ビタミンA誘導体) | パルミチン酸レチノール | ★ | ★★★★★ | 化:〇 医:〇 | レチノールを安定化させたもの。 皮膚内でレチノールに変化するが、どちらもシワの改善効果は認められていない。 |
酢酸レチノール | ★★ | ★★★★★ | 化:〇 医:× | ||
レチノール | レチノール | ★★★ | ★ | 化:〇 医:〇 | 皮膚や粘膜のターンオーバーを促進。ヒアルロン酸の産生を促進し、角層水分量を増加。 |
ビタミンA油 | ★ | ★★★★ | 化:〇 医:× | 各種ビタミンAが溶けたもの。肌の水分保持力を向上させる。 | |
トレチノイン (レチノイン酸) | トレチノイン | ★★★★★ | ★ | 化:× 医:× | レチノールの約50~100倍の生理活性を有する。医薬品の成分のため、化粧品・医薬部外品には配合不可。 |
化…化粧品、医…医薬部外品 / 〇…配合可能、×…配合不可能
* 美容成分キャラ図鑑[12a] 参考
上の表からもお分かりいただけるように、
必ずしも「レチノール=シワ改善」というわけではありません。
レチノールの種類ごとの効果や特徴を理解し、自身の目的に沿った成分が配合されている商品を選ぶのが良いでしょう。
また、繰り返しになりますが、厚生労働省にシワ改善の効果が認められているのは純粋レチノール(資生堂のレチノール)のみなので、シワ改善を目的とする場合は資生堂のレチノール配合商品を選ぶのが無難と言えます。
使用方法
レチノールは化粧水、美容液、乳液、クリームなどに配合されています。
先に述べている通り、レチノール自体は油性成分のため、オイルや油脂に溶ける性質があります。
普段のスキンケアにプラスするのであれば、通常、洗顔後~お手入れの最後のどこかのタイミングで使用することとなります。
その商品のタイプ、濃度、質感(油っぽさ)次第で、どのタイミングで使用すべきかが変わってくるため、必ず使用方法(使用量、頻度、タイミング、スキンケアの手順など)については公式の案内する情報を確認し、従うようにしてください。
使用上の注意点
レチノール製品を使用する上でいくつか注意・意識しなければならないことがあります。
紫外線分解・酸化
レチノールは紫外線による分解や空気に触れて酸化が進みやすい成分です。
直射日光に当たらない場所で保管し、きちんと密閉することを心がけましょう。
(なお、往々にして製剤技術や容器自体の改良、レチノールの部分構造を変化させる(誘導体)ことなどで安定化が図られています。)
また、朝や日中に使用しないこと、あるいは、使用する場合は可能な限り日に当たらないようにしましょう。レチノール製品の使用後にUVカット効果のある製品を併用することが推奨されていることが多いです。(※必ずしもこの限りではありませんので、商品の使用方法をよく確認しましょう。)
レチノール反応(A反応)
ビタミンAが不足している肌にビタミンAを補う際に生じる反応を、レチノール反応(A反応)と言います。
赤みや腫れ、搔痒感やヒリヒリ感、ほてり、乾燥、角層の剥離など、症状はさまざまです。
初めて、もしくは、期間をあけてから再度使用する場合は、いきなり高濃度の製品を使用するのではなく、低濃度のものから使用する、パッチテスト(部分的に塗布)を行い様子を見ることなどが重要です。
濃度
濃度が高い製品ほど、また、レチノイン酸に近い成分*ほど、A反応が強く生じやすくなります。
(* レチノールの種類と特性 参照)
日本では、厚生労働省ホームページで通知されている「いわゆる薬用化粧品中の有効成分リストについて(平成20年12月25日薬食審査発第1225001号)」により、薬用化粧品(=医薬部外品)への有効成分としてのレチノールの配合量が以下のように決められています。
最低配合量:30000IU/100g = 9090.9…μg/100g ≒ 0.01%(重量パーセント濃度)
最大配合量:250000IU/100g = 75757.5…μg/100g ≒ 0.08%(重量パーセント濃度)
つまりレチノールは0.01~0.1%程度が効果を発揮する最適な濃度と考えられているため、使用する商品に配合されているレチノール濃度の情報が手に入る場合は、製品の特長とあわせてよく検討すべきです。
特に、成分によっては日本の基準よりも海外の方が規制が緩いため日本では許可されていない高濃度のコスメが入手できてしまう可能性があります。海外でコスメを購入する際には、この点にも念頭に入れておくと良いかもしれません。
連用期間
レチノールの使用により、ただちにシワ改善が見込めるわけではありません。
例えば、前項の資生堂の研究では、9週間続けて朝晩2回の塗布行った研究結果となっています。
レチノール製品に効果を期待するのであれば、最低でも2カ月程度は使用を続けるつもりでいましょう。
※A反応の範囲を超えた皮膚異常やあまりにも強い刺激などが見られた場合は、我慢して使用を続けるのではなく、直ちに使用を中止して皮膚専門科医にご相談することをお勧めします。
他の美容成分との組み合わせ
レチノールは刺激が強い成分であることから、他の刺激が強い成分や肌への高いストレスをかける成分との併用は控えた方が良いでしょう。
例えば、洗浄力の高い洗顔(ラウリル硫酸Na)、ピーリング製品(特にBHA(サリチル酸)やAHA(のなかでもグリコール酸))、スクラブ、そのほか高濃度の美容液などは、使用を控えるか、使用回数を減らすなどして様子見をすることをお勧めします。
シワの種類
シワの種類は前項で述べた通り、4パターン存在します。
レチノールは、表皮性しわ(小じわ)および真皮性しわ(深いしわ)の改善、およびシワ予防への効果が期待できるため、たるみや表情じわに対して使用することは得策ではないことが考えられます。
他の成分との効果的な組み合わせ
これまで見てきた通り、レチノールの欠点は、低い安定性と高い皮膚刺激性などでした。
(製剤技術や構造の安定化によりこれらの欠点を補う商品も多くあります。)
これから、レチノールと組み合わせて使用すると効果的な成分とその理由について見ていきます。
スクワラン【保湿】
皮膚に対する刺激がほとんどない保湿成分。
油性成分のため、レチノールを溶かし込み安定性を高めることが可能。
コエンザイムQ10(ユビキノン、ユビデカレノン)【保湿・エイジングケア】
高い抗酸化力をもつため、紫外線によるシワ、乾燥による小ジワのケアとして使用される成分。
化粧品への配合上限量が0.03%と低いため、レチノールと併用することで、双方の欠点を補い合う形となる。
コラーゲン類【保湿・エイジングケア】
肌表面に保護膜を形成し、うるおいを閉じ込める働きがある保湿成分。
水溶性コラーゲンや加水分解コラーゲンと併用することで、ヒアルロン酸合成の促進に効果的。
ヒアルロン酸【保湿・エイジングケア】
肌表面のうるおいを保持する働きがある保湿成分。
ヒアルロン酸の被膜効果によりハリ感が強化され、エイジングケアの効果を実感しやすい。
プラセンタエキス【美白・エイジングケア】
ブタ、ウマ、ヒツジなどの動物の胎盤から抽出・生成したエキス。
肌の代謝を高め、シミ・そばかす、色素沈着を防ぐ美白効果、保湿効果、肌荒れ防止効果などがある。
プラセンタエキスの保湿・美白・抗炎症効果とレチノールの抗シワ・エイジングケア効果を組み合わせることで、多機能なマルチケアを実現できる。
*化粧品成分辞典[10b] 参照
同様の効果をもつ美容成分
純粋レチノールの以外にもシワ改善効果が認められている有効成分(赤色の背景)、シワ予防などの目的で配合される成分が存在します。
成分名(愛称) | 成分名(表示名) | 概要 |
---|---|---|
ニールワン | 三フッ化イソプロピルオキソプロピルアミノカルボニルピロリジンカルボニルメチルプロピルアミノカルボニルベンゾイルアミノ酢酸Na | 2016年にポーラが開発した、日本で初めて医薬部外品の抗シワ有効成分に認定された成分。 コラーゲンやエラスチンなどの真皮構成成分を分解する好中球エラスターゼの働きを抑えることで、真皮の成分の分解を食い止め、シワを改善する。 |
リンクルナイアシン | ナイアシンアミド、ニコチン酸アミド | 2017~2018年にコーセーやP&Gが表皮・真皮への作用を見出し、「シワを改善する」効能が追加承認された成分。 レチノールやニールワンが油溶性であるのに対し、ナイアシンアミドは水溶性のため、唯一水に配合可能。化粧水やジェルに配合しやすい成分。 美白、血行促進によるターンオーバーの促進、消炎作用なども併せ持つ。 医薬部外品への配合目的ごとに表示名が異なることに注意が必要。 ニコチン酸アミド…美白、肌荒れ防止 ニコチン酸アミドW…シワ改善(P&G) ナイアシンアミド…シワ改善(コーセー、花王、カネボウなど) |
アルジルリン | アセチルヘキサペプチド-8 | スペインで開発された、神経細胞の活動を和らげ、表情筋をリラックスさせることでシワをできにくくする効果があることから「塗るボトックス」とも呼ばれる。 |
ジ酢酸ジペプチドジアミノブチロイルベンジルアミド | ジ酢酸ジペプチドジアミノブチロイルベンジルアミド | 筋肉を弛緩させる蛇毒に似た成分を人工的に作り出したもの。シワ改善効果はアルジルリンの6倍ともいわれている。 |
幹細胞培養液 | ヒト脂肪細胞順化培養液エキス、リンゴ果実細胞培養エキス、アルガニアスピノサカルス培養エキスなど | 線維芽細胞に働きかけ、肌にハリを与えたり、ターンオーバーを促進することが期待できる。 |
グロースファクター | EGF、FGF、KGFなど | 特定の細胞の増殖を正常化させる働きがある。 特に、EGFは上皮細胞増殖因子と呼ばれ、表皮に作用し、ターンオーバーを正常に戻す働きがある。 |
エラスチン | 加水分解エラスチン | コラーゲンとともに真皮を形作る構成成分。 肌のハリや弾力を保つ役目がある。 水に溶けにくいため、化粧品に配合させるために細かく分解したエラスチンを使用することが多い。保湿作用を目的とし、化粧水、クリーム、日焼け止めなどに使用される。 |
* 化粧品成分辞典[10a]、美容成分キャラ図鑑[12a] 参考
その他、保湿作用のある成分(コラーゲン、ヒアルロン酸、セラミド、アミノ酸、スクワラン、ワセリンなど)、抗酸化作用のある成分(フラーレン、白金ナノコロイド、コエンザイムQ10、アスタキサンチン、αリポ酸、ビタミンC誘導体、ビタミンE誘導体、β-カロチンなど)、抗糖化作用のあるエキス(セイヨウオオバコ、ゲットウ、レンゲソウ、マロニエ、ドクダミ、ウメなど)も、シワ予防につながる成分と言えます。
(ここではまとめきれないため、またの機会に紹介記事を書きたいと思います。)
商品の紹介
最後に、実際に純粋レチノールが配合された製品をいくつか紹介します。
当サイトでは、ピュアレチノール(構造を変えていないレチノール)配合の製品に絞って商品を紹介します。
SHISEIDO バイタルパーフェクション / リンクルリフト ディープレチノホワイト5 (医薬部外品)
※画像をクリックすると楽天の購入サイトへ遷移し、商品の詳細をご覧いただけます。公式認定販売店へのリンクです。
販売価格 :14,740円(2023-5-8 時点)
内容量 :20 g
タイプ :目元・口元用クリーム
使用方法 :夜の1日1回*、お手入れの最後に適量を塗布
有効成分 :純粋レチノール(シワ改善)、4MSK(美白)、-m-トラネキサム酸(美白)、グリチルリチン酸ジカリウム(抗肌荒れ)、ビタミンEアセテート(抗肌荒れ)
*安定期間(肌がレチノールに慣れてきてから)の場合
当サイトで紹介した、厚生労働省で正式にシワ改善の効果が認められた資生堂のレチノール(純粋レチノール)を配合した医薬部外品のクリームです。
多少お値段は張りますが、レチノールを広めた先駆者、資生堂が32年のシワ研究をかけてたどり着いた新商品(2021年3月発売)です。
1種の抗シワ有効成分、2種の美白有効成分、2種の抗肌荒れ成分が配合され、SHISEIDO初の計5つの有効成分を配合した医薬部外品になっています。
純粋レチノールによるシワ改善の王道商品といえるでしょう。
バイタルパーフェクションシリーズとして、化粧水・乳液・美容液・クリームがそれぞれ医薬部外品で販売されているため、ゆとりのある方は一度試してみる価値はあるのではないでしょうか。(※個人の感想です。)
ELIXIR(エリクシール) / エンリッチドリンクルクリーム(医薬部外品)
※画像をクリックすると楽天の購入サイトへ遷移し、商品の詳細をご覧いただけます。公式認定販売店へのリンクです。
販売価格 :7,000円(2023-5-8 時点)
内容量 :22 g
タイプ :クリーム
使用方法 :朝と夜の1日2回、お手入れの最後に小さなパール粒大を塗布
有効成分 :純粋レチノール(シワ改善)
*安定期間(肌がレチノールに慣れてきてから)の場合
おなじく、資生堂のレチノール(純粋レチノール)を配合した医薬部外品のクリーム。
大容量(Lサイズ)で約1.5カ月分(適切な使い方をした場合)あっても、有効成分を純粋レチノールに限定しているため、リンクルリフト ディープレチノホワイト5よりも価格が抑えられています。
「レチノール類で、日本で唯一のシワを改善する有効成分」としてのレチノールを試してみる初めの1本目としてもおすすめです(※個人の感想です。)
COSRX(コスアールエックス) / The Retinol 0.1, The Retinol 0.5
※画像をクリックするとQoo10購入サイトへ遷移し、商品の詳細をご覧いただけます。公式販売店へのリンクです。
販売価格 :2,469円(2023-5-8 時点)
内容量 :20 mL
タイプ :クリーム / オイル
使用方法 :夜の1日1回*、化粧水後に枝豆サイズを顔全体に塗布(クリーム) / 化粧水後にセラムの段階で適量を塗布(オイル)
*安定期間(肌がレチノールに慣れてきてから)の場合
韓国のコスメショップCOSRXの話題の商品「The Retinol」シリーズ。
誘導体にせずにレチノールを安定化する製剤技術や特殊容器により、レチノールを光・熱・空気から守るようです。使用後はすぐに冷蔵庫で保管することを推奨されています。
4つのヒトへの適用試験から、毛穴改善・シワ減少・弾力改善・リフトアップに対して効果が立証されているようです。
また、効果には2カ月程度は覚悟した方が良いと記載しましたが、The Retinolでは4週間で毛穴改善・シワ改善・リフトアップ効果が得られたとの報告があります。
加えてノンコメドジェニックテストを完了しており、使用してもニキビができにくいことも証明されています。
他にも、スーパービタミンE(γ-トコトリエノール)による抗酸化作用、医薬部外品に配合されるアラントインによる抗炎症作用、ヒアルロン酸による保湿効果など、さまざまなケア成分が配合されているため、マルチな効果が期待できるのではないでしょうか(※個人の感想です)。
KISO(キソ) / スーパーリンクルローション VA, スーパーリンクルセラム VA, スーパーリンクルクリーム VA
※画像をクリックするとQoo10購入サイトへ遷移し、商品の詳細をご覧いただけます。公式販売店へのリンクです。
販売価格 :2,280円 / 1,508円 / 2,323円(2023-5-8 時点)
内容量 :120mL / 30mL / 50g
タイプ :化粧水 / 美容液 / クリーム
使用方法 :朝と夜の1日2回使用可能、洗顔後(オイルの前)に500円硬貨大の化粧水を塗布 ⇒ 3,4滴の美容液 ⇒ パール大のクリームを順に塗布
高濃度無添加主義の日本ブランドKISOのピュアレチノール化粧品です。
肌のツヤ・ハリを与え、キメを整える目的で、ピュアレチノール原液(および他のレチノール誘導体)が配合されています。
※化粧水の3%、美容液の5%というのは原液(ほかの成分も混ざっている液体)の濃度のため、レチノールの濃度としてはもっと濃度が低くなっています。
まずは、レチノールをケアに取り入れてみたいと思う方は、比較的お手頃な価格のこちらから試してみるのもよいかもしれません(※個人の感想です)。
TOUT VERT(トゥベール) / RETINOL
※画像をクリックすると楽天市場購入サイトへ遷移し、商品の詳細をご覧いただけます。公式販売店へのリンクです。
販売価格 :3,410円(2023-5-8 時点)
内容量 :30 g
タイプ :クリーム
使用方法 :夜に1日1回*、お手入れの最後(オイルの前)に小さなパール粒大を塗布
*安定期間(肌がレチノールに慣れてきてから)の場合
ビタミンC誘導体の研究など、美白効果に強みを持つ国内ブランドTOUT VERT(トゥベール)。
肌にハリ・ツヤを与え、キメを整える目的でレチノールが配合されており、乾燥・キメの乱れによるくすみにアプローチすることで、透明感のある肌を目指せます。
本製品には、日本人の肌質に合わせてビタミンA誘導体(グラナクティブレチノイド2%、レチノイン酸トコフェリル、パルミチン酸レチノール、水添レチノール)も、独自バランスで配合されているため、計5種類のレチノールがそれぞれ時間差で、刺激性・安定性・効果の強さなどを補い合いながら力を発揮するような形になっています。
他にも、保湿成分や美容成分、成分を守るための容器にもポイントがあり、製品に対する強いこだわりを感じられます(※個人の感想です)。
以上、今回は初回記事としてレチノールに関してつらつらと書き綴ってきましたが、いかがだったでしょうか?
情報の発信には細心の注意を払っておりますが、私が勉強している情報が古かったり、誤っている可能性も0ではありません。万が一、何かお気づきの方がいらっしゃいましたら、コメントやお問い合わせフォームからご連絡いただけると非常に助かります。
また、記事に関係あるなし関わらず「こんなことが知りたい!」ということがありましたら、コメントやSNSなどでご連絡いただければと思います(記事化できるかは約束できかねますが…(笑))。
ここまで読んでいただいた方に、何か一つでも得るものがあったことを願いつつ―――。
次の記事も気ままに書いていきます!
参考文献等
- 1a. Trudy McKee, James R. McKee. マッキー生化学 分子から解き明かす生命. 第4版, 化学同人, 2014. p.295-297
1b. 同上. p.290
1c. 同上. p.464-466
1d. 同上. p.482-483
1e. 同上. p.337
1f. 同上. p.289-290
1g. 同上. p.293
1h. 同上. p.395-396
1i. 同上. p.197 - 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所ホームページ (2023-05-04参照)
2a. ビタミンB1(nibiohn.go.jp)
2b. ビタミンB2(nibiohn.go.jp)
2c. ビタミンC(nibiohn.go.jp) - Fatima Saleem, Michael P. Soos. Biotin Deficiency. StatPearls. 2023
- 貫名学, 星野力, 木村靖夫, 夏目雅裕. 生物有機化学. 第1版. 三共出版. 2016. p.177-178
- 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準(2020 年版). p.171-177(2023-05-03参照)
日本人の食事摂取基準(2020 年版)ビタミン(脂溶性ビタミン).pdf - Robert P Heaney. Functional indices of vitamin D status and ramifications of vitamin D deficiency. Am J Clin Nutr. 2004, Vol 80, Issue 6, p.17065-17095
- 文部科学省. 日本食品標準成分表(八訂)増補2023年(2023-05-04参照)
第2章(データ)(Excel:1.9MB) - Christophe Antille, Christian Tran, Olivier Sorg, Pierre Carraux, Liliane Didierjean, Jean-Hilaire Saurat. Vitamin A Exerts a Photoprotective Action in Skin by Absorbing Ultraviolet B Radiation. Journal of Investigative Darmatology. 2003, Vol 121, Issue 5, p.1163-1167
- M. I. Dawson. The importance of vitamin A in nutrition. Curr Pharm Des. 2000, Vol 6, Issue 3, p.311-325
- 10a. 久光一誠. 化粧品成分辞典. 池田書店. p.102-105
10b. 同上. p.72-79, 96-97, 102-111, 114-115 - 宇山侊男, 岡部美代治, 久光一誠. 化粧品成分ガイド. 第7版. フレグランスジャーナル社. 2020. p.155, 164
- 12a. 小西さやか. 美容成分キャラ図鑑. 第3版. 西東社. 2020. p.86-89
12b. 同上. p.94-95 - 13a. 化粧品成分検定協会. 化粧成分検定公式テキスト 改訂新版. 第1版. 実業之日本社. 2022. p.76-78
13b. 同上. p.76, 92 - 大田正弘. 「シワを目立たなくする」から「改善する」までの製剤技術と有効性. J. Soc. Cosmet. Chem. Jpn. 2019. Vol.53, No.3, p.171-180
PDF - 15a. 日本化粧品検定協会. 日本化粧品検定2級・3級対策テキスト コスメの教科書. 第2版. 主婦の友社. 2017. p.92-03
15b. 同上. p.52-53, 56-57, 60
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